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「人々を病むべき導きながら,健やかにと命じる」システム

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最近,人に勧められてジャーナリストの辺見庸さんの著書を読む機会がありました.彼の著書の中で,資本主義について以下のように例えています.この世のありとあらゆる異なった「質」をお金という同質の「量」に置き換えるシステムであり,「人々を病むべき導きながら,健やかにと命じる」システムでもあると.この本によれば,ケインズは,1930年頃に,20世紀末には週に15時間程度働けば暮らせるようになり,生活の質も上がると予言したけれども,実際はそうはならずに,労働はどんどん過酷になり,現在のような競争主義,業績主義が過酷になって不平等が拡大し,その結果,鬱が蔓延してきたと述べています.他人の苦しみには鈍感で,格差社会は当たり前のこと,努力しないからそうなるのだと人々は当たり前のように考えてしまい,一方で,自分のしんどさに敏感で,権利を声高に主張する.こういう醜さも競争主義,業績主義がますます進んできた結果なのでしょう.経済や社会のことに疎い私には,少し過激だと思える文章ではありましたが,現在の鬱の蔓延,自殺者の増加,健康問題の増加などいちいち頷けることでもありました.お金を稼ぐ,よい生活をすることだけが人の幸せではないということも考えておく必要があります.

そこで,日体協スポーツ医・科学委員会の研究プロジェクトの報告書として,現在多くの方と執筆中の「子どもの身体活動ガイドライン」の内容に心が移りました.現在における子どもの状態はどうでしょうか.がんばって良い中学,高校,大学にいけば良い将来が待っている,スポーツをがんばっていけば推薦で入学できる,だからがんばりなさいという大人の価値観はまさに「人々を病むべき導きながら,健やかにと命じるシステム」である資本主義的ではないでしょうか.また,特色ある教育,早期教育,独創的な教育,特徴のある授業,なんとか指定校など,多くのことを子どもに強いることもまた,学校や家庭において,健やかにと大人が命じながら,実は子どもにとってどんどん病まされて行くことになってはいないかと考えてしまいます.

自分の得にならないと何もやらないが,得になるとわかれば他の子どもを押しのけてでもやる,こういう計算高い,小ずるい子どもがでてくるのは資本主義的価値観の結果かもしれません.親は,自分の子どもが他の子どもよりも光って欲しいと願うのは当たり前ですが,それが他の子の犠牲や迷惑の基に達成されているというならばどうでしょうか.大人には少々生意気そうに見えるけれども,実は友人を大事にし,信義に厚い「長靴下のピッピ」のことを思い出してしまいました.体を動かすことをいとわない子ども,成果を先に計算することなくおもしろいと思って何かをやる子ども,そういう子どもを育てることが,私たちのプロジェクトの目的とするべきなのかなと思い始めています.

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